ハンコ並び、上司にペコリと「おじぎ」…ビジネスマナー?電子印鑑でも増殖中
2021/01/09
金融業界などの一部で慣習とされる「おじぎ印」をご存じか。
社内の決裁書などに回覧印を押す際、部下ほど印影を左に傾け、隣に並ぶ上司のハンコに向けて頭を下げているように見せる。
さすがに行き過ぎた礼儀だとの声も出るが、脱ハンコやデジタル化の流れをものともせず、今後も残り続けそうだ。
■上司へ傾け押印、金融などで慣習
2002年に3行の統合・再編でみずほ銀行が発足した2年後。「書類に押印する時は支店長に向かっておじぎするように傾けろ」。
転勤で都内の支店に着任した奥野良孝さん(当時38歳)は、旧第一勧業銀行出身の上司の指示に驚きを隠せなかった。
自身の古巣となる旧富士銀行では、当然のように真っすぐに押印していたからだ。
その後はおじぎ印を押す度、ひっくり返して傾ける角度を念入りに確認することが欠かせず、面倒だとも感じたという。
現在は銀行を離れ、再建を担った中堅企業の役員を務める奥野さんは「従業員が数万人の会社で行えば『チリも積もれば』で、手間と時間のロスはかなりの無駄なコストになる」と指摘する。
みずほ銀行は20年春以降、行内外の手続きで脱ハンコを加速させ、「現在、おじぎ印は行っていない」(幹部)としている。
そもそも、おじぎ印は礼儀なのか、行き過ぎなのか。業界団体「全日本印章業協会」の福島恵一副会長によると、押印は文字が真っすぐになるのが正しい方法だという。
斜めに傾けるのは「美しい押し方ではなく、礼儀とも言えない」(福島氏)と、決してお勧めはしていない。
■角度は1度単位で指定可能…導入企業30倍に
では、脱ハンコが進めば廃れゆくのかと思えば、そうでもなさそうだ。
業界最大手のシヤチハタ(名古屋市)は20年11月、企業向けに提供する電子印鑑サービス「シヤチハタクラウド」で、新たにおじぎ印の機能を設けた。
オンライン上で押印する際、印鑑の種類を選べるだけでなく、回転させる角度を1度単位で指定できる。
開発担当者は「ユーザー企業から要望があり、ニーズに応えて利便性を高めることが目的」と説明する。
同社の電子印鑑サービスを新たに導入する企業は、在宅勤務が広がった20年3~6月は約27万社に上り、以前の30倍超に急増した。
全体としては脱ハンコが進みつつも、パソコンで手軽にできるようになったおじぎ印に限れば、むしろ取り入れる企業は増えそうな勢いである。
■ビデオ会議には「上座・下座」機能
コロナ禍は様々なビジネスマナーが生まれるきっかけになった。
代表例がビデオ会議システム「Zoom」の関連だろう。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは、
顧客企業の若手社員には事前にログインして上司を待ち、会議終了後は最後に退出するのが無難だと勧めている。
オンライン会議での「上座」「下座」もその一つ。
Zoomは20年9月、画面上に参加者を表示する順番を任意に入れ替えられる機能を世界一律で設けた。
日本企業の一部はそれを活用して画面の左上ほど上席者、右下ほど末席者を配置している。
だが、Zoomの日本法人によると、この機能は手話通訳や司会役の人を固定して表示し、参加者が多い会議でも円滑に進行しやすくすることが目的だ。
「ビジネスマナーを意識したわけでなく、想定外の使われ方」(担当者)と戸惑う。
ほかにも▽オンライン会議では常にカメラ目線▽在宅勤務でも上下のスーツ着用▽宴会や会食でお酌や料理の取り分けは厳禁――。
感染防止が大義名分とはいえ、珍マナーと言わざるをえないものもある。コンサルタントの西出さんはこうアドバイスする。
「ビジネスマナーは、相手や社会、そして自分たちも利益を得るウィンウィンの関係作りが本来の目的。コロナ禍だからこそ本質を重視し、原点に立ち返るべきだ」
以下
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210108-OYT1T50225/
2021/01/09
![Zoomの画面に上座・下座、電子印で「上司にお辞儀」機能…変わる世界、変わらぬ慣習 生まれる珍マナー [疣痔★]->画像>1枚](https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210108-OYT1I50084-1.jpg)
金融業界などの一部で慣習とされる「おじぎ印」をご存じか。
社内の決裁書などに回覧印を押す際、部下ほど印影を左に傾け、隣に並ぶ上司のハンコに向けて頭を下げているように見せる。
さすがに行き過ぎた礼儀だとの声も出るが、脱ハンコやデジタル化の流れをものともせず、今後も残り続けそうだ。
■上司へ傾け押印、金融などで慣習
2002年に3行の統合・再編でみずほ銀行が発足した2年後。「書類に押印する時は支店長に向かっておじぎするように傾けろ」。
転勤で都内の支店に着任した奥野良孝さん(当時38歳)は、旧第一勧業銀行出身の上司の指示に驚きを隠せなかった。
自身の古巣となる旧富士銀行では、当然のように真っすぐに押印していたからだ。
その後はおじぎ印を押す度、ひっくり返して傾ける角度を念入りに確認することが欠かせず、面倒だとも感じたという。
現在は銀行を離れ、再建を担った中堅企業の役員を務める奥野さんは「従業員が数万人の会社で行えば『チリも積もれば』で、手間と時間のロスはかなりの無駄なコストになる」と指摘する。
みずほ銀行は20年春以降、行内外の手続きで脱ハンコを加速させ、「現在、おじぎ印は行っていない」(幹部)としている。
そもそも、おじぎ印は礼儀なのか、行き過ぎなのか。業界団体「全日本印章業協会」の福島恵一副会長によると、押印は文字が真っすぐになるのが正しい方法だという。
斜めに傾けるのは「美しい押し方ではなく、礼儀とも言えない」(福島氏)と、決してお勧めはしていない。
■角度は1度単位で指定可能…導入企業30倍に
では、脱ハンコが進めば廃れゆくのかと思えば、そうでもなさそうだ。
業界最大手のシヤチハタ(名古屋市)は20年11月、企業向けに提供する電子印鑑サービス「シヤチハタクラウド」で、新たにおじぎ印の機能を設けた。
オンライン上で押印する際、印鑑の種類を選べるだけでなく、回転させる角度を1度単位で指定できる。
開発担当者は「ユーザー企業から要望があり、ニーズに応えて利便性を高めることが目的」と説明する。
同社の電子印鑑サービスを新たに導入する企業は、在宅勤務が広がった20年3~6月は約27万社に上り、以前の30倍超に急増した。
全体としては脱ハンコが進みつつも、パソコンで手軽にできるようになったおじぎ印に限れば、むしろ取り入れる企業は増えそうな勢いである。
■ビデオ会議には「上座・下座」機能
コロナ禍は様々なビジネスマナーが生まれるきっかけになった。
代表例がビデオ会議システム「Zoom」の関連だろう。マナーコンサルタントの西出ひろ子さんは、
顧客企業の若手社員には事前にログインして上司を待ち、会議終了後は最後に退出するのが無難だと勧めている。
オンライン会議での「上座」「下座」もその一つ。
Zoomは20年9月、画面上に参加者を表示する順番を任意に入れ替えられる機能を世界一律で設けた。
日本企業の一部はそれを活用して画面の左上ほど上席者、右下ほど末席者を配置している。
だが、Zoomの日本法人によると、この機能は手話通訳や司会役の人を固定して表示し、参加者が多い会議でも円滑に進行しやすくすることが目的だ。
「ビジネスマナーを意識したわけでなく、想定外の使われ方」(担当者)と戸惑う。
ほかにも▽オンライン会議では常にカメラ目線▽在宅勤務でも上下のスーツ着用▽宴会や会食でお酌や料理の取り分けは厳禁――。
感染防止が大義名分とはいえ、珍マナーと言わざるをえないものもある。コンサルタントの西出さんはこうアドバイスする。
「ビジネスマナーは、相手や社会、そして自分たちも利益を得るウィンウィンの関係作りが本来の目的。コロナ禍だからこそ本質を重視し、原点に立ち返るべきだ」
以下
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20210108-OYT1T50225/